佐藤英太郎工人のこけし

「 馬鹿か ! 」

と、大声で何度も言われる

慣れる迄は自分に言われている様で

身が竦む心地がする

もちろん、この「 馬鹿か ! 」は

佐藤英太郎工人の工房「 木目 」に

こけしを見に来られたお客さんに対してのものではない

佐藤英太郎工人の、こけしのことばかりではなく

世の中のあらゆるものに関する憤りから発せられる言葉なのである

孤高な明るさと繊細さ温かさを持たれた方である

 

直系でも弟子でもない工人がなんの断りもなく

祖父の直助工人が考案した木目模様を描彩している

そしていつの間にかその木目模様が

遠刈田系の模様ということになってしまっている

また英太郎工人が30年程前に木地人形で

お雛様を作れば、知らぬ間にあちこちの工人達が

お雛様を作る

「 伝統とはなんだ ! 」

こけしとはなんだ ! 」

もちろん、私を含めほとんどのお客は

その様な問い掛けに答えることが出来ない

英太郎工人もそんなことは承知でこれらの問いを発する

いや、発せずにはいられないのであろう

 

英太郎工人はこけし作りの実践の中からだけではなく

御自身の生きて来られた中からそういったことを

考え抜き、そして学んで来られた

私達にも自分の実践の中から学んでもらいたい

そしてなにより、工人御自身が今猶学んでおられる

だから、発せずにはいられない

伝統を継ぎ、その伝統の上に自身の創作を乗せ、次代に伝える

それが伝統というものだ

伝統を継いだだけ、創作だけ、のどちらか一方だけでは

きんつばだよ、と仰られる

 

体格のがっしりとした工人は

意外にも、幼少時には苛められていた時期もあったそうで

そういったときには工人のお母様が

苛めた相手達を一喝してくれたそうで

また工人御自身でも苛められてばかりではなく

後には反撃されたりもしたそうである

そういった幼少時の体験が工人の

人として筋の通らないことへの憤りに通じ

弱いものをただ庇うだけではなく

共に進もうという温かさに繋がっているのではないだろうか

昨日出来上がったものだよ、と言って見せて下さった

天平の描彩のこけし

どこか温かな慈しみを感じさせる

穏かな観音様か菩薩様のような美しさで

また母御の様な近しさを備えたこけしであった

 

英太郎工人の本人型のこけし

この 天平の描彩が施されたこけし、とのことで

木地師はずっと生活の道具を作り続けて来て

その後こけしが二百年程作られて来た

( 木地師の始まりといわれる惟喬親王は平安前期の皇族であられるが

   実際はそれよりも前に大陸から伝わった技術であろう

   近江の木珠 < 数珠の珠のこと > などは聖徳太子によって伝授された

   という言い伝えがある )

 * ( ) 内は私の勝手な補足で英太郎工人が仰られたことではありません  *

だから、天平の描彩を施したものを自身の型として

描かれているのだそうである

「 俺がやらなきゃ誰がやるんだよ  」と

 

こけしを作られる木は、三十年から四十年程も寝かされた木だそうで

同じ白でも白が違う と

 

「 平和でなければこけしなんか作っていられない 」

「 みんなが仲良く繋がればいい 」

「俺は同じものは作らないから」

確かに作られたこけし達は一つとして同じものがない

ないのだが、工人の作られたたくさんのこけしの中から

適当に幾つかのこけしを選び出し、並べてみる

すると、形も大きさも描彩のタイプも違うこけし達が

一つに繋がりまた一つのまとまりとなり

和して見える !

こけしが二つ三つであろうと七つ八つであろうとも

その様に見えるのである

本当にアトランダムに選び出したものなのに

工人曰く

「 一つ一つのこけしが様になっているから 」

「 一つ一つのこけしにストーリーがあるから 」

その様に見えるのだと

 

「 80になってやっと思い通りのもが作れるようになったよ 」

と、楽しそうに仰られる工人

こけし、でありながら

こけしとは思えない気品や穏かさ

やさしさ美しさ、時に色香を感じさせる工人のこけし

守破離

名人は危うきに遊ぶ

しかも、真剣に遊ぶ

 

「 俺は命を懸けてこけしを作っているんだ ! 」

「 売れなくてもいいんだよ ! 」

「 だけど俺は作る ! 楽しいんだ !」

「 俺が作るこけしには色々なものが総べてこもっているんだよ ! 」

 

あたたかさや少年のような純真さ、やさしさばかりでなく

世の中への義憤や怒りなども含め

総べての想いを込めて作られたこけし

それは佐藤英太郎工人の祈り

御自身の強さも弱さも、裏も表も込められた

強く優しく明るい祈り

そんな祈りの下に作られたこけし

穏かさややさしさ明るさを持った、存在 なのである

 

佐藤英太郎工人、奥様 ありがとうございました

 

 

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