あのとき

真田太平記 第五巻 秀頼誕生の七

54頁~55頁より引用

 

昌幸のほうで、信幸の言葉を待っているのだ。

だが、信幸は、ついに言葉を発しなかった。

昌幸は、あきらめたらしい。

わずかに頭を振り、声もなく笑った。

苦笑というより、その笑顔には何ともいえぬ

哀しみがただよっている・・・・・・

そのように、信幸には感じられた。

このときの父の顔を、信幸は生涯、忘れ得なかった。

父亡きのち、信幸が、あかつきに見る夢に出て来る

父・昌幸の顔は、いつも、このときの顔であった。

 

( 引用ここまで )

 

肥前名護屋から先に国許に帰る信幸と

父、昌幸との遣り取り

分かっている

分かってくれている

だが秀頼の誕生が齎した情勢の変化が

父、安房守の心に微妙な変化を齎す

双方共に選びぬこうとして、ついに

「 えらびきれなかった・・・・・・ 」 言葉

勘違い

お互いに察しているからこそ言えぬ言葉

もしも・・・