「 浅草、元鳥越の牛堀道場といえば
間違いなく、江戸一番
旗本のお歴々の中には、御子息に
「 木太刀を持たぬでもよい
牛堀先生の側にすわっているだけでも
お前のためになる。 」
などと、仰られるお方もおありだそうじゃ 」
第 3話 「狂乱」 より
豊田孫左衛門が牛堀九万之助の評判を語った台詞 )
紺邑さんでの藍染体験の帰り道
この台詞を不図思い出していた
御病気で細られた御体の一体に何処から
あのような包み込む様な温かさが出て来るのであろうか
人というのはあの様にも強く
温かになることが出来るものなのか
8時半前にマンガ喫茶を出て
道を挟んだレンタカー屋さんでワゴン R を借り
寄り道をしながら閑馬町へと向かう
10時前、紺邑さんに到着
今年は迷うことなく到着出来た
奥様の洋子先生にお迎え頂く
そして、大川先生が体調を崩されて
病院に行かれたことを伺う
( 幸いに大きな事ではなく、夕刻には戻って来られました )
洋子先生に体験の準備と御指導をして頂き
昨年の手順を思い出しながら染めていく
一年振り二度目の正藍染の体験
また今回も、講習日直前のお忙しい日に
なってしまったのですが、快く受け入れて下さいました
今日染めさせて頂くデニムは、二年越しの都合三日目
どこまで濃く出来るだろうか
それからデニムの他に綿麻のシャツ、半袖と長袖
( というか七部袖 ) のものを各一枚ずつの計 三点
重さはそれぞれに 160g、300g、680g
シャツは綿 7、麻 3割くらい
素人なので当たり前と言ってしまえば
当たり前なのだけれども
やはり、難しい
シャツなど裏表がひっくり返ってしまって
今、どの辺を押さえているのかが
まったく分からなくなってしまう
それ以前に、静かに
染め液をなるたけ動かさない が
相変わらずに難しい
余りにも出来ない
だが出来ないからと間誤付いていて
ゆっくり愚図愚図としていたのでは染められない
30分程して、昨年講習を受けられた Aさんが
御自分で建てられた ! ! 正藍染の藍で下染めをされた
ストールや Tシャツ、ハンカチを本染めされる為に
持って来られる
今度ご縁を頂いたお店に置かせて頂くことになる
作品達だそうです
そしてその内の Tシャツは、洋子先生に教えて頂きながら
籠染めにされていました
ランダムに染める布を指で捻ったりしていき
それを 2つの籠に挟み、確りと固定し
染め液に浸けていく
後で染め上がりを拝見しましたが
綺麗な模様に染まっていました
白色と藍色の取り合わせは
本当に美しい
Aさんが言われていたのですが
お弟子さん方の間では、時に
「 洋子先生の指は神の指 ! 」 と言われるそうで
時々、降りて来る ! のだとか
洋子先生は笑って聞いておられましたが
( 籠染めなどの ) 模様を見れば
その人の指の器用さが分かる
と話されておられました
Aさんが作品の染まり具合、出来具合を尋ねた折
ぱっ と見てさらっと意見を言われた時には
その呼吸と間合いに
これまでの経験、知識などの奥の深さが
サッと感じられて
流石に、と心の中で唸らされました
大川先生がここまでの高みに来られたのも
勿論、先生御自身のものもお在りになられるのですが
共に並んで歩むことの出来る奥様が居られてのこと、と
思われました
途中で Aさんにも教えて頂く
Aさん曰く、水中酸化は結構くたくたになるまでやる
とのアドヴァイスを頂戴する
因みに、Aさん曰く、をもう一つ
藍染は恋愛と一緒 ! だとか
流石の熱意 ! 情熱 !
本建てのとき温度をよく見極めていないと
発酵から腐敗に転じてしまう
再び発酵に戻すことも出来るそうですが
微生物に依る発酵のみで建てる
正藍染ならではの難しさでしょうか
灰汁の為の灰作りには可也の木が必要
洋子先生が仰られるに
灰は 1 / 1000
昼御飯なぞ食べる気も起きない 笑
難しいのだけど
染め液に浸け、色が増し、深みが増していく度に
もう一度、もう一回と際限なく
染めていきたくなってしまう
楽しい ! !
明日からの講習会の先乗りの方が来られる
千葉からの方
夕刻、迎えに行かれていた洋子先生と御一緒に
大川先生が帰って来られる
先生が帰って来られただけでその場の空気が染まる
包み込むような、温かな空気に
お身体に障るのでは、とこちらが思っていても
先生は気にも掛けられていない御様子で
お話して下さる
ブログに厳しいことばっかり書くからさあ
なんだか、怖い人って思われてるみたいでさあ
と、屈託のない笑顔で話される
( 正藍染の ) 色が綺麗ですとこちらが申すと
嬉しそうに、そう思って下さる と目を輝かせられる
確かに厳しいことも言われるし書かれる
徳島の蒅の去年と今年のものは殆ど色が出ないのだそうだ
徳島では今迄の蒅農家が諸般の事情からやめられて
新しい蒅農家を育てることになった
その為に今迄伝わって来ていた
蒅栽培の智恵が途切れてしまった
藍は種さえ蒔けば出来る
でも、その藍の葉に藍の色の成分が沢山なければ如何しようもない
出来た、だけでは意味がないのである
大事なのは、土作りから と
やさしさにも色々とあり人それぞれ、人様々だ
厳しさにも色々な厳しさがあり、またそれも人様々のものだ
そんな当たり前のことさえ今の日本人は理解することが出来ない
厳しいは、厳しい のみでやさしいは、やさしいことのみ
人間は良いことをしながら悪いことを行い、また
悪いことをしながら一方で良いことをする
厳しさの内にやさしさがあることもあれば
やさしさの内に厳しさがあることもある
本当の厳しさ、とはどの様なものなのか
先生は徳島の藍農家をただ批判されているわけではない
日本の伝統文化を伝える為に
厳しいこと、を言われているだけのことである
日本の文化は、腰を反る文化である、と
野口裕之先生は仰られた
道具や礼儀作法はある種の
その文化を伝えていく 〝 型 〟 である、と
文化が人を育て
人が文化を伝え繋げていく
我々日本人も もういい加減に
人間を育てる為の〝 土作り 〟から
考え直さなければならないのではないだろうか
体験料をお支払いしてお暇することに
美しい藍色に染まったデニムとシャツを車に乗せ
山間の暮れかけた夏の空を眺める
大川先生、洋子先生、Aさんありがとうございました
画像は 8/23 に灰汁抜きを済ませたものです